俊顕くんの家でコンサート

俊顕くんの家でのコンサートの日、私は朝6時に目を覚ました。ジュンはまだ眠っていたので、起こさないように静かに起き上がって、私はリビングに行ってコーヒーを一杯飲んだあと、一人で最後の練習を始めた。30分ほど気になるところを繰り返しさらっていると、ドアが開いて、眠そうな顔をしたジュンが目をこすりながらリビングに入ってきた。
ジュン「おはよう、とうさん、練習してたんだ・・・」
私「おはよう、ジュンはもう少し寝てればよかったのに。」
ジュン「目が覚めちゃったから、もう起きる・・・」
私「コーヒーだったらいれてあるよ。その前に顔を洗っておいで。」
ジュン「うん、そうする。」
顔を洗ってすっきりしたジュンといっしょに私も二杯目のコーヒーを飲んだ。
ジュン「コーヒー飲んだら、いっしょに練習しようか?」
私「ちょっと合わせづらいところだけ、もう一度確認できると、安心だし・・・」
ジュン「あんまり完璧に合わせちゃうより、ちょっとずれたりするところがある方が、緊張感が生まれていいと思うけど・・・」
私「ジュンはそうだろうけど、とうさんはジュンほど余裕がないから、確実にしておきたいんだ。」
ジュン「とうさんが安心できるんだったら、オレはいくらでも練習付き合うけどね。」
私「じゃあ、あと30分くらいやっておこう。」
そう言って私たちは合わせが難しいところをさらっていった。
ジュン「これくらいだったら、ぜんぜん問題ないと思うよ。」
私「そうだね、いくらやってもきりがないし・・・」
ジュン「本番では練習より少しだけテンポを落としてやろうね。」
私「いいけど・・・」
ジュン「テンポが上擦らないように、少し遅いくらいのつもりだとちょうどいいと思うよ。」
私「わかった、がんばってみるよ。」
練習を終えて交代でシャワーを浴びていると、8時少し前に直さんがやってきた。
私「直さん、起きられました?」
直さん「今日はめずらしくなんか朝早くから目が覚めちゃって・・・」
私「私もですよ、だからちょっと練習してました。」
直さん「ぼくもちょっと弾いてみたけど、なんか練習してるときりがなくて・・・」
ジュン「直さんならもうぜんぜん大丈夫ですって。」
直さん「ジュンちゃんの足を引っ張らないように、今日はがんばらなきゃね・・・」
ジュン「直さんもとうさんももう少し気楽に弾いても、もう大丈夫だと思うけどね・・・」
そんな事を話しながら私たちは朝食をいっしょに食べた。9時少し前に部屋を出てマンションの出口までおりていくと、すでに俊顕くんの家からの迎えの車が待っていた。私たちは顔見知りの運転手さんに挨拶をして、車に乗った。そして30分ほどで俊顕くんの家に着いた。
俊顕くんの迎えをうけて、私たちは家の中に入って、まずはお茶をごちそうになった。そして本番の演奏と同じ順序で最後の練習を始めた。それなりに練習は重ねてきたので、それぞれすごくノリのいい演奏で練習を終えた。
ジュン「それにしても、今日はみんなすごくない?」
俊顕くん「演奏してると、俺ちょっとあっちに行きそうになった。」
直さん「本番が楽しみだよね、今日は・・・」
練習が終わってから、少し遅めの昼ごはんを食べて、練習でのテンションを本番に持っていくために、それ以上は練習しないことにして、楽屋がわりの俊顕くんの部屋でおしゃべりをしたり、楽譜を読んだりしていた。
本番開始の30分まえの、2時半頃、俊顕くんのご両親が部屋まで挨拶に来てくれた。
父上「いつも演奏していただいて、感謝しておりますよ。」
母上「今回も私の好きな曲ばかり演奏してくださるので、ほんとうに楽しみにしていますわ。」
俊顕くん「もうお客さん来てるんだろう? お相手しなくていいの?」
父上「こっちのみなさんに挨拶するほうが重要だから先に来たんだよ。それじゃあみなさんよろしく頼みます。」
そして3時ちょうどにコンサートの本番が始まった。私は二番目の演奏なので、準備をすませて、サロンの一番後ろの目立たないところに座って最初の演奏を聞くことにした。
まずは直さんとジュンで、モーツァルトの連弾ソナタ、ハ長調K.521である。この曲はモーツァルトの連弾のためのソナタの最後の曲で、親しみやすいメロディーで始まる一見モーツァルトらしい愛らしい曲であるが、じっさいはモーツァルトの後期の魅力の詰まった、難しい曲である。直さんとジュンの連弾は、仲の良い二人らしい親しげな掛け合いと、またあるところでは二人でちょっと争うようなアンサンブルをしたり、そしてドキッとするような艶めかしいような表情をしたりと、いつも以上に充実した演奏が繰り広げられた。演奏が終り、私はすぐに通路に出て、ステージに出る準備を整えた。そして上気した顔をした直さんとジュンが拍手に送られてサロンから出てきた。
次は私のヴァイオリンとジュンのピアノで、ベートーヴェンのヘ長調作品24のソナタである。「春」という表題の付いた曲で、有名な曲だけに、ミスをするとすぐにバレてしまう怖い曲でもある。ジュンの言ったとおり、練習の時よりも少し遅いテンポで私は弾き始めた。それがすごくいい方に作用したのか、いつもよりもずっとヴァイオリンが自然に歌い始めてくれた。ダブルストップの箇所もきれいに音が融け合ってくれたし、早いパッセージも割と余裕をもって弾ききれた。ジュンのピアノともこんなにうまく融け合うような心地良さをあらためて感じることができた。演奏後の、お義理ではないあたたかい拍手を聞くと、演奏時の緊張が急に溶けていくような気がした。
そして演奏会の後半は、私と直さんは前半で演奏が終わったので、サロンの後ろの席に並んで座ってゆっくりと後半の俊顕くんとジュンの演奏を聞くことにした。
後半最初の曲は、俊顕くんの弾くショパンの第二番のピアノソナタ、ロ短調作品52である。この曲の3楽章はクラシックの中でも最も有名な葬送行進曲である。俊顕くんの蕩けるような艶めかしい演奏が、妙に私のからだの奥を熱くするようで、私はちょっとムズムズとした感覚を覚えていた。
最後は、俊顕くんとジュンの連弾で、ドビュッシーの小組曲である。これはほんとうに仲の良さが滲み出てくるよな、聴いていると微笑ましくなるような演奏で、ショパンのソナタがメインディッシュとすると、気の利いたフルーティーなデザートのような、甘酸っぱいような気持ちを思い出させる演奏だった。
演奏が終わっても拍手が鳴り止まなかったので、アンコールを弾くことになった。
俊顕くん「今日は私達のコンサートにお集まりいただきありがとうございます。回を重ねるごとに、少しずついい演奏をお届けできているのではないかと自負しております。拍手にお応えしてアンコールを弾きたいと思いますが、このコンサートを企画してくれてた、私の母にアンコールのリクエストをしてもらうことを、お許しください。それでは、お母さん、リクエストはありますか?」
母上「本来ならいらしてくださったみなさまにリクエストをしていただくところですが、今回はすみませんが私にリクエストをさせてくださいね。それでは、もう一度、ドビュッシーの小組曲の第一曲、en bateauをお願いするわね。」
俊顕くん「わかりました、それではアンコールとして、ドビュッシーの小組曲の第一曲をもう一度弾きます。じゃあ、ジュン、準備はいい?」
確かに母上がもう一度聞きたがるのがよく理解できる、いい演奏だった。それをもう一度聞けるのは、母上だけでなく私もうれしいことだった。

演奏が終わると、その後はサロンを少し片付けて、アフターヌーンティーのパーティーになった。
演奏者はいろんな人から挨拶をされるので、けっこう忙しい。たまたま聞きに来てくれていた人の中に、ジュンの通っていた音高の先生がいた。ヴァイオリンの先生なのでジュンは直接は教わったことはないらしいが、それでもお互いに顔は知っていたそうだ。
ジュン「こちらは音高のヴァイオリンの斉*先生。それで、こっちが親父です。」
先生「えっ、ホントにお父さん? 義理のお父さんかなにか?」
ジュン「正真正銘の親父です。」
先生「なんか確かに顔はちょっと似ているけど、兄弟かと思いました。」
私「どうも、ジュンの父親です。早くにジュンができたものですから・・・」
先生「変なことを言ってすみませんでした。」
ジュン「ねえ、先生、父のヴァイオリン、どうでした?」
先生「お父さんは、音楽関係の学校を出られたんですか?」
私「とんでもない、普通の学校ですよ、まあ母親が音楽教師だったので、楽器をならわせるのに熱心でしたけどね。」
先生「すごくいい演奏でしたよ、なんか聞いてるほうまで癒されるような感じで。ただテクニックの面では改善の余地ありですね、それが良くなればもっとずっといい演奏になる。それから、ちょっとベートヴェンとしては演奏様式が古い感じですね。今はもう少し演奏方法が変わってきてるから、ヴァイオリンは特に・・・」
私「このところヴァイオリンを習ったことがないですからね、できたらそういう最新の演奏の勉強もしたいんですが・・・」
先生「う~ん、もしも私でよければ、月イチくらいのペースでよければレッスンしますよ。」
ジュン「ええ、先生、それホント?」
私「でも、お忙しい先生に直接教えてもらうわけにはいかないから、だれか私でも教えられる人を紹介していただければ・・・」
先生「いえいえ、お父さんのようにプロじゃないのにこれだけ弾ける人なら、私のほうも教えがいがあるというものです。」
ジュン「ねえとうさん、先生もそう言ってくださってるんだから、思い切って習いに行きなよ。」
先生「月一回くらいだったら、スケジュールはなんとでもなりますから、ぜひいらしてください。」
私「そうですか、それじゃあお言葉に甘えて、最初は試しにということで、レッスンお願いします。」
先生「そうしたら、第一回目の日時はあとで相談しましょう」
俊顕くん「みんなで何話してたんですか?」
ジュン「斎*先生がね、とうさんにヴァイオリンのレッスンをしてくれるんだって。」
俊顕くん「まったく斉*さん、こんなところで営業活動しないでくださいよ。」
先生「人聞きの悪いこと言うなよな、まったく俊顕は相変わらずかわいくないヤツだなあ・・・」
ジュン「俊顕は先生と知り合いなの?」
俊顕くん「ああ、遠縁にあたるおじさん。」
先生「こら、おじさんじゃねえだろうが、お兄さんといえお兄さんと・・・」
俊顕くん「斎*さんは、性格は悪いですけど、ヴァイオリンだけはうまいから、ヴァイオリンを習うだけなら大丈夫ですよ。」
先生「ったく・・・」
そこに俊顕くんのフィアンセの○香さんがやって来た。育ちの良さがからだ全体から立ち上ってくるような感じの、おっとりとした印象の女の人だ。
フィアンセ「みなさんで楽しそうに何をお話になってたんですの?」
先生「俊顕と私とどっちのほうが性格がいいかということを・・・」
フィアンセ「それでしたら、斉*さんには悪いのですが、俊顕さんのほうですわね。」
俊顕くん「ほら、俺のほうにまず一票。」
先生「やれやれ、やってられないね。」
俊顕くん「あれ、友達は?」
フィアンセ「ひと*さんでしたら、すぐにこちらに来ますわよ。」
俊顕くん「もう、ジュンと聡一さんは知ってるよね。」
フィアンセ「少し前にご挨拶をさせていただきましたわ。それで、ジュンさんにぜひひと*さんをご紹介したいなと思ってましたのよ。」
俊顕くん「なるほど、ひと*さんだったらジュンにちょうといいかもしれない・・・」
フィアンセ「私と違って、ひと*さんはシャキシャキとしたしっかりした人なんですのよ。」
私「まだジュンには早いと思いますが・・・」
俊顕くん「なに聡一さん慌ててるんですか・・・」
フィアンセ「俊顕さんと私は、もうずっと前からいいなずけですのよ。」
俊顕くん「まったく聡一さんはジュンのこととなると、まわりが見えなくなるんだから・・・ べつに見合いするわけじゃないんですよ、ちょっと友達として紹介するだけなんだから・・・」
そこに俊顕くんのフィアンセの友達がやってきた。あまり化粧をしていないが、くっきりとした顔の女の人だった。
フィアンセ「ひと*さん、こっちにいらっしゃいよ。紹介したい方がいらっしゃるの。」
ひと*さん「また○香の友達紹介魔が始まった・・・」
フィアンセ「お友達が増えると楽しいでしょう? こちらが俊顕さんの大学の同級生のジュンさん、その隣りの方はお若いけど、ジュンさんのお父様。」
ひと*さん「そうなんですか、親子でヴァイオリンとピアノの演奏なんていいですね。素敵な演奏でしたわ。」
私「つたない演奏でお恥ずかしい・・・」
俊顕くん「親子であんな演奏ができるなんて、ホントうらやましいよね。」
フィアンセ「ほんとうですわ、俊顕さん、私達も子どもができたら、一緒に演奏できるようにしましょうね。」
ジュン「ひと*さんは○香さんの大学の友達なんですか?」
フィアンセ「私たちは高校までは同級生だったんですけど、ひと*さんは他の大学の方に入られたから、大学の方は別々なんですのよ。あらそうだわ、そういった事は、ジュンさんが直接ひと*さんにお聞きになったほうがいいのじゃないかしら。俊顕さん、それからお父様、あちらにまいりませんか。」
確か俊顕くんのフィアンセは俊顕くんより一つ年下のはずだったが、お見合いおばさん顔負けの気の利かせようである。私たちは他のグループのところに行って話に加わった。ジュンを見ると、ひと*さんと楽しそうに話している。くやしいけれどなかなかお似合いに見える。ジュンが何を話しているか気にはなったのだが、まさか何を話しているか聞きに行くわけにもいかない。けっきょく時間が来てパーティーが終わるまでジュンはひと*さんとはなしていたようだった。
そしてパーティーも終わり、私たちは俊顕くんの家の車で送ってもらうことになった。まずは私のマンショに行ってもらい、その後直さんをおくっていくことになった。
マンションに帰って、二人とも虚脱したように、ソファに座り込んだ。
私「今日は疲れたね・・・」
ジュン「うん、長い一日だった。」
私「まだ9時だけどね。」
ジュン「疲れ取りたいから、お風呂に入ろうよ。」
私「そうだね、今日はからだも精神も両方疲れた・・・」
風呂のお湯を張って、私たちはいっしょにゆっくりとお湯で温まった・・・

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別荘に行って練習を

飛び石連休前の金曜の夜10時過ぎに直さんがウチにやってきた。翌日土曜の朝は、○○にある俊顕くんの家の別荘に行くため、7時発のあずさに乗るので、私のところからいっしょに新宿駅に行くことにしたのだった。俊顕くんとジュンは土曜は高速が混むので、金曜の午後すでに俊顕くんの車で出発していた。
直さん「ソウさん、今夜はお世話になります。」
私「明日は朝早く出るし、寝るだけだから・・・」
直さん「ジュンちゃんたちは?」
私「向こうに無事着いたって電話がかかってきた。」
直さん「今夜はジュンちゃんがいなくて、ソウさんさみしいでしょう。」
私「そのかわりに直が来てくれたし・・・」
直さん「じゃあ、今夜はぼくはジュンちゃんのかわり?」
私「ジュンは息子、直は・・・」
直さん「今夜はソウさんに甘えちゃおうかな・・・」
私「甘えてくれるのはいいけど、今夜はエッチはなしだよ。」
直さん「ええ、なんで?」
私「あと一週間でコンサートでしょう、だからエッチしないでエネルギーを溜めておかないと・・・」
直さん「確かにあっちが溜まってるほうが演奏の時に高揚しやすいよね・・・」
私「今回は全員ちゃんと禁欲して、コンサートにのぞむ、と俊顕くんの希望・・・」
直さん「ジュンちゃんと俊顕くんは若いから、禁欲生活は大変なんじゃないかな・・・」
私「まあ一週間だから・・・」
直さん「コンサートで演奏してる最中に良くてイッちゃったりして・・・」
私「直だったら、やりかねないからなあ・・・」
そんな事を話しているうちに夜が更けてきたので私たちは早めに寝たのだった。
翌朝、新宿からあずさに乗った。朝早く起きたので、電車が走り始めるとすぐに直さんは寝はじめた。私もうつらうつらしているうちに二時間ほどで〇〇駅に着いた。改札口を出ると俊顕くんとジュンが爽やかな笑顔で私達を迎えてくれた。別荘のいろんな準備をしてくれていた、俊顕くんの世話係の**さんもいっしょだった。別荘の準備の終わった**さんは私達と入れ違いにあずさで東京に帰るそうだ。**さんを見送って、私達は俊顕くんの車で別荘に向かった。
別荘に着いて、コーヒーを飲んで目を覚ましたあと、私達は練習を始めた。
まずは俊顕くんの演奏する、ショパンのソナタ2番を聞いた。ほとんど完全に仕上がっていて、一気に最後まで俊顕くんは弾いた。その後、ジュンが専門的なチェックを何カ所かして、その部分を俊顕くんはなんども納得出来るまで弾き直していた。そして早めに**さんが準備をしてくれていた昼食を食べて、その後気分転換に別荘のまわりを少し散歩した。午後はまず私とジュンで、ベートーヴェンのヘ長調のソナタを練習した。家ではジュンとなんども練習しているが、直さんと俊顕くんの二人だけとはいえ、観客がいるとけっこう緊張してしまう。家ではちゃんと出来ていたところがうまくあわなかったりして、時々演奏を止めてやり直しながらけっこう苦労してなんとか最後まで弾いた。演奏時の問題箇所のあぶり出しができたので、私は別室に行って、一人で練習をすることにした。その間、ジュンと直さんがモーツアルトの連弾のソナタの練習するので、それを本当は聞いてみたかったのだが、また別の時に聞くことができるだろう。
夜は俊顕くんの家の人達のいきつけの和食屋さんの個室で食事をした。俊顕くんとジュンは夜も練習するのでアルコールは飲まなかったが、直さんと私は一杯だけビールを飲んだ。
夜、俊顕くんとジュンは、ドビュッシーの小組曲の練習をした。これは俊顕くんの母上のリクエストで、二人にとっては慣れた曲なので、いきなり楽しそうな打ち解けた演奏が聞けた。
練習が終わると俊顕くんとジュンもビールを飲んでやっとほっとしたような表情を浮かべた。
別荘は家族用の部屋の他に客用の部屋もあり、私とジュンは客用の和室を使うことになった。直さんと俊顕くんは家族用の部屋で寝ることになった。
翌日もそれぞれの組み合わせで一日中練習をしたのだった。そして練習の疲れを癒すためにその日はみんなで温泉に行った。夜の露天風呂にゆっくりと入っていると、練習の疲れがだんだんと消えていくような気がした。
月曜日は午前中は練習をしたが、午後はたまには休養ということで、車で高速に乗って、・・インターで降りて、黒澤明の映画で有名になった水車のあるわさび農場に行った。あいにくの雨模様の天気だったが、そばを食べて、そしてわさびソフトクリームを食べて、雨の日のしっとりとした風情のわさび田や、きれいな水路沿いの水車を見て楽しんだ。
天気があまり良くなかったので、早々に別荘に帰ってきて、近くの温泉にまた入りに行った。飛石連休の月曜日にもかかわらず意外に露天風呂は空いていて、最後は私達は四人だけで独占することになり、からだが熱くなってくると岩の上に上がってからだを冷まして、また温泉に入るのを繰り返していた。だいぶ長く露天風呂にいたので、そろそろ出ようかと、お湯から上がろうとすると直さんがお湯から出ようとしない。
私「直さん、そろそろ出ましょう、あんまり入ってるとのぼせますよ。」
直さん「あとからすぐ出て行くから、先に行ってて・・・」
私「じゃあ先にいきますから、早く出てきてくださいね。」
直「うん、そうする・・・」
俊顕くん「直さん、ひょっとして勃起しちゃったんじゃないんですか? それで出られないんでしょう?」
直「ゴメン、ちょっとだけ勃っちゃった・・・」
俊顕くん「俺たちの裸で興奮したのかな?」
直「もとはといえば、俊顕がコンサート前は禁欲しろって言ったんだろうが、だから・・・」
俊顕くん「直さん、ガマンしてくれてたんだ・・・」
ジュン「べつにオレたちしかいないんだから、直さん、べつにそのまま出ても大丈夫だよ・・・」
けっきょく直さんは前をタオルで隠してお湯から出てきた。それにしてもほんとうに直さんらしい敏感な反応だった。
その後、買ってあった食材を使ってみんなで料理を作って食べた。私と直さんは翌日東京に帰るので最後の夜ということで、ちょっとした宴会のようになってしまっていた。
宴会が終わって、私とジュンは和室で並べて敷いた布団に横になった。
ジュン「温泉で直さん、興奮したのかな?」
私「俊顕くんとジュンの若くて色っぽいからだを見てたら、ゲイだったらそうなるよ・・・」
ジュン「とうさんも?」
私「とうさんもグッと来たよ。」
ジュン「でも勃起してなかったじゃん?」
私「とうさんは大きくならないようにガマンしたけどね・・・」
ジュン「そうなんだ・・・ で、今は?」
私「今もガマンしてる・・・」
ジュン「今夜はコンサート前だから出来ないけど、終わったら・・・」
私「ほら、もう寝なさい・・・」
ジュン「温泉でまだからだがぽかぽかしてる・・・」
私「気持よく寝られるぞ・・・」
ジュン「うん、おやすみ、とうさん・・・」
私「おやすみ・・・」
翌朝、私達は最終日ということで、早く起きて別荘のまわりをゆっくりと散歩した。そしてまた練習をして、午後三時に別荘を出て、車で**駅まで送ってもらった。俊顕くんとジュンは飛石連休最後の日は高速が渋滞するので、翌日の朝別荘を出発する予定だった。その二人と別れて、私と直さんはまたあずさに乗って東京に帰った。帰りの電車の中でも直さんは気持よさそうに眠っていた。

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俊顕くんの父上と

俊顕くんのお父上から食事をしながら久しぶりにゆっくり話さないかとのお誘いがあった。それで昨日の夜、指定された店に私はすこし早めに出かけて行った。
店の入口でお父上の名前を告げると、店の人が予約の部屋に案内してくれた。坪庭に面したそれほど広い部屋ではないが、手入れが行き届いたきれいなところだった。お茶を飲みながら、俊顕くんの父上を待っていると、すぐに父上はやってきた。
父上「いやいや、遅くなりまして・・・」
私「いえ、私のほうが早く着いてしまったものですから・・・」
父上「今日は聡一くんのほうがお客さんだから、そっちの席に移ってもらうよ。」
私「いえいえ、私はこちらで・・・」
父上「そうかね、では悪いが私がそっちに座らせてもらうよ。」
私「いつもお招きいただき、ありがとうございます。」
父上「いや、いつもお呼びたてしてすまないね。それから、ジュンくんと俊顕の同級生の父親どうしなんだから、もっとざっくばらんにいこうじゃないか。」
私「いつもジュンが俊顕くんにお世話になってまして・・・」
父上「いや、それはお互い様、俊顕の方こそ、ジュンくんには世話になっておるようだ。」
私「俊顕くんにはいろいろと学ぶことが多いみたいで、ジュンも多少は成長しているようです。」
父上「そう言ってもらうと親としてはうれしいが、俊顕も一皮剥くとまだまだ子供みたいなところもあって、まだまだですな。」
私「ジュンの方もまだまだ子供で・・・」
父上「それで今夜はジュンくんと俊顕のことで、聡一くんに相談したいことがあって、わざわざ来てもらったんだが・・・」
私「どういう事でしょうか?」
父上「ジュンくんも大学院に行くそうだが、その後どうするのだろうか? プライベートなことを尋ねてすまんのだが・・・」
私「いえ、大丈夫ですよ、ジュンは大学院に進めるようになってからは、大学の先生になれたらいいなんて言ってますね。私の父がずっと大学で教えてたものですから、その影響でしょうか・・・」
父上「それはもう決まったことなんだろうか?」
私「いえいえ、大学院に行ったら大学の先生になれるんじゃないかと、ジュンが単純に考えているだけです。」
父上「そうしたら、普通の企業に就職する可能性もあるわけですな。」
私「私はジュンに、まだ先のことだからひとつに決めることはないと言っているのですが・・・」
父上「それで、聡一くんに相談というのは、ジュンくんに私の働いている会社に入ることを検討してもらえないだろうかということなんだ。」
私「ジュンの将来に関しては私はなにも干渉しないことにしてますから。」
父上「もちろん、ジュンくんなら就職するにしても一流の大会社から引く手あまただろうから、ウチの会社では不満かもしれんが、とりあえず検討だけでもしてもらえないだろうか・・・」
私「それは私からジュンに言うのではなくて、そちらから直接ジュンに話してもらえませんか・・・」
父上「私から直接ジュンくんに打診しても、聡一くんはかまわんのだね。」
私「最終的にはそういう事はジュンが自分で決めることですから・・・」
父上「実はジュンくんにウチに来てくれないかということは、俊顕の強い希望があったんだよ。私は最初は、会社に入ってしまったら、友達関係を続けていけなくなる可能性もあると、俊顕に言ったのだが・・・」
私「私もそれは心配ですね、違う道を歩んだほうが友達関係を続けられると思いますね。」
父上「ウチの会社に入ってもらったら、どうしても俊顕の下で働いてもらうことになるから、そこらへんをジュンくんがどう思うかなのだが・・・」
私「ああ・・・ そうですね、上下関係になると友達でいられるか・・・」
父上「もちろん、ウチに来てもらったら、最初からは無理だろうが、なるべく早く然るべきポジションにつけるように、俊顕も考えるだろうが、確約するわけにはいかんからなあ・・・」
私「そちらに行ったら、ジュンにも多少のメリットがあることはわかりました。」
父上「それから、もし来てくれたら、俊顕といっしょに、アメリカに2年ほど最新の経営学の勉強に会社からの派遣で行ってもらうことも可能ではあるが、これもすまんが確約はできんのだよ、ただジュンくんが優先的に派遣されるように後押しすることならできるんだがね・・・」
私「それが可能なら、ジュンにとってはものすごく魅力的な話ではあるんですが・・・」
父上「私からジュンくんにこの事を直接打診してもかまわんかね。」
私「もちろんそれについては私は反対しませんから・・・」
父上「聡一くんは私の話をちゃんと理解してくれるから助かるよ。俊顕はジュンくんをヘッドハンティングしたいようだが、私は聡一くんをヘッドハンティングしたいくらいだ・・・」
私「その気持はうれしいですが、それは無理です。」
父上「聡一くんはそう言うだろうとは思ってたよ。まあそれは諦めるが、ジュンくんの方は進めさせてもらうよ。」
私「わかりました。」
父上「話はとりあえずついたようだから、遅くなったが乾杯をしよう。」
すぐにビールが運ばれてきて、私たちはとりあえず乾杯をした。
父上「聡一くん、腹が減っているなら、最初にメシとおかずを持ってこさせるが、どうする?」
私「まずはもう少し飲みたいですね、メシはその後で・・・」
父上「それでは、酒にあいそうなものを見つくろって持ってこさせよう。」
そして刺身が何種類かきれいに盛りつけられて、日本酒といっしょに運ばれてきた。私たちは日本酒で再度乾杯をした。
酒を飲みながら、俊顕くんの父上から私のことをいろいろと上手にきかれたので、私も自然に話していた。やはりジュンを会社に入れるかもしれないと思うと、親である私のこともいろいろ情報として調べる必要があるのだろう。それだけ、俊顕くんは本気でジュンを引っ張りたくて、父上に頼んでいるのだろう。
そんな事を話しているうちにけっこう時間がたってしまっていた。最後にご飯と椀物と漬物が出てきた。
父上「そう言えば、27日にはまたウチのコンサートに出てくれるそうで、いつもすまないね。」
私「どちらかというと私の方が演奏できるチャンスをもらって、喜んでます。」
父上「家内が聡一くんの演奏が好きでね、よろしく頼むよ。」
私「そう言っていただけると、ホントにうれしいですね。」
父上「私はクラシックのことはそれほどわからんのだが、それでも聞いていて気持ちのいい演奏だ。」
私「それから、こんどの週末から練習のために別荘をお借りします。」
父上「私と家内はちょっと用があって、どうせ別荘には行けないんだよ。俊顕は行くので、別荘の方は好きなように使ってくれたまえ。」
私「ありがとうございます。集中して練習できるので助かります。」
父上「今夜はいろいろと聡一くんと腹をわって話ができて良かったよ。」
私「私こそ、お誘いいただいてありがとうございました。」
父上「また近いうちにメシでも食べよう。」
私「はい、喜んで・・・」
店を出て、車で最寄り駅まで送ってもらって、私は電車に乗って帰った。それにしても、ジュンが俊顕くんの会社に就職するとしたら、いい話なのかそうでもないのか、私はまだ結論をだすことができなかった。それにしても俊顕くんは確実に目的に向かって動き始めたのは確かなようだった。

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再び俊顕くんがジュンのことで

先週の平日の夜、俊顕くんから私に電話がかかてきた。
俊顕くん「聡一さん、この時間だとまた仕事帰り?」
私「そうだよ、少し前に仕事を終えたところ。」
俊顕くん「聡一さんに言いたいことがあるんだ、これから行ってもいいですか?」
私「今夜はジュンは家庭教師のアルバイトだからいないよ。」
俊顕くん「それは知ってます、ジュンのいないときに聡一さんにきいておきたいことがあるんだ。」
私「ジュンのことで何か私に文句でもあるのか?」
俊顕くん「聡一さん、鋭いですね。」
私「なんの話だか知らないけど、とにかく家においで。」
俊顕くん「じゃあ、あとで行きますね。」
いったい俊顕くんがなんの話があるのか、私は少し気にしながら俊顕くんが来るのを待っていた。
8時ころ俊顕くんはやってきた。
俊顕くん「また夜来てしまってすみません。」
私「べつにいいけどね、今日はなんの話なんだよ。」
俊顕くん「学校でジュンから聞いたんですが、ジュンはなんか大学院に行けないかもしれないって言ってましたよ。」
私「ええ、なんの話だよ、それ・・・」
俊顕くん「ジュンの話によると、お祖父さんからもらってた学費がもらえなくなるかもしれないみたいなことを言ってましたけど、どういうことなんですか?」
私「ああ、そのことか、確かにこの前ちょっとジュンの祖父さんたちと行き違いがあってね・・・」
俊顕くん「そんでお祖父さんが学費を出してくれなくなったんですか?」
私「まだはっきりとは学費が出なくなるとは決まってないけど、成り行きによっては出なくなるかもしれない・・・」
俊顕くん「それでジュンは院に行けないかも知れないって言ったんだ。でも聡一さん、お祖父さんからの学費が出なくなったとしたら、ジュンを院に行かせられないんですか?」
私「まだ出なくなるって決まったわけじゃないし・・・」
俊顕くん「万が一、その学費がお祖父さんからでなくなったら、ウチの親父から奨学金を出させることも可能なんですが・・・」
私「その奨学金、なんかわけありみたいだな。」
俊顕くん「もちろん院を終了したら会社に入って働いてくれるという条件付きですが・・・」
私「俊顕がお父上に頼んでくれたのか?」
俊顕くん「それはどうでもいいでしょう、お節介かもしれませんが、俺はジュンに院には行ってもらいたいし・・・」
私「俊顕、いろいろと気を使わせたな、ありがとう・・・」
俊顕くん「なんか聡一さんにそんなにマジで感謝されるなんて、なんか変な感じだな・・・」
私「でも、もしも祖父さんから学費が出なくなっても、大学院にジュンを行かせるんだったら、私の経済力でもなんとか大丈夫だから・・・」
俊顕くん「そうですよね、聡一さんもちゃんとした社会人なんだから・・・ すみません、余計なことを言ってたら許してください。」
私「俊顕は、ホントいいヤツだな、ジュンもいい友達を持ったみたいだよ・・・」
俊顕くん「なんか聡一さんにそんなふうにほめられると、からだじゅうがむずがゆくなってくる。」
私「こら、茶化すんじゃない、私はまじめに言ってるんだ。」
俊顕くん「もう、聡一さんたら、大人ぶっちゃって・・・」
私「私の息子の同級生なんだぞ、俊顕は。」
俊顕くん「俺はジュンと違ってかわいくなくて、す・み・ま・せ・ん・・・」
私「まあ俊顕はそういうかわいくないところがかわいいんだけどね・・・」
俊顕くん「聡一さん、ちょっとひどくないですか、その言い方・・・」
私「ほめたつもりなんだが・・・」
俊顕くん「そんなほめられ方、ぜんぜんうれしくない・・・」
私「話は終わったから、またウチでメシ食ってく?」
俊顕くん「もうすぐジュンが帰ってくるんでしょう? 俺はもう帰ります。今夜は俺はここに来なかったことにしてくださいね。」
私「わかってるよ、俊顕、いろいろとありがとうな。」
まもなくジュンが帰ってくる時間だったので、俊顕くんはさっさと帰っていった。しばらくしてジュンが帰ってきたので、ジュンと二人で夕食を食べ始めた。
ジュン「オレ、もう少し、かてきょうのバイト増やそうかと思って・・・」
私「どうしたんだよ、なんか欲しいものでもあるのか?」
ジュン「そうじゃなくてさ、この前お祖父ちゃんところであんなことになって、オレももうあそこには行きたくないし、そうしたら今までみたいに学費もらえないじゃん、だからバイトを少し増やそうかなと思って・・・」
私「まだ祖父さんは学費を出さないって言ってるわけじゃないからね、それからもしも祖父さんが出さないっていっても、ジュンを大学院にやるくらいだったら、とうさんにだってなんとかなるからね、ジュンはそんなこと心配するな。」
ジュン「とうさん、無理しなくっていいって・・・」
私「いままでけっこうとうさんとジュンはいろいろ節約してきたから、ジュンが大学出て、院を修了するまで大丈夫なくらいの蓄えはあるぞ。」
ジュン「それホント? とうさん、オレのために無理してない?」
私「今までジュンの学費は祖父さんが出してくれてたから、ジュンの学費に相当する額はとうさんも出したつもりで貯金してきたから、それを使うだけでもとりあえずしばらくはなんとかなるよ。」
ジュン「ホント、それならすごくうれしい。オレもバイトを増やして少しは足しにするから。」
私「ジュン、おまえは大学生なんだから、勉強のほうを優先して、友達とも付き合って、そっちの方が大切だぞ。とりあえずは経済的に困るわけじゃないから、バイトは今までと同じでいいよ、もしも経済的に困ることがあったら、そのときはジュンに相談するからね。」
ジュン「そうなんだよかった、心配して損しちゃったみたいだね。」
私「そうそう、ジュンは今までどおり、ちゃんと大学生をしてればいいの。」
ジュン「そうだ、オレが院に行けないかもしれないって、俊顕に言ったら、すごくさみしそうな顔をしてたから、やっぱ行くことになってって、知らせてあげようっと。」
私「以前俊顕はジュンが院に行くって決まったとき、すごく喜んでくれていたからね。」
食事が終わったあと、ジュンは俊顕くんにメールをし始めた。学費の件については、もしもジュンが今までみたいに定期的に祖父母のところに行かなくなっても、祖父がジュンの学費を止めるとは私には思われなかった。もしも出してくれなくなっても、ジュンが院を出るくらいまでなら、私の方でジュンの学費くらいは問題なく出せる。私としてはどっちにしろジュンに安心して学校に通ってもらえればそれでいいのだから・・・
私「俊顕くんからメール返ってきた?」
ジュン「うん、院にいっしょに行こうって書いてあった。」
私「俊顕くんに負けるなよ。」
ジュン「がんばるけど、俊顕はハンパじゃなくすごいからなあ・・・」
私「ジュンだってけっこう頭いいと思うけどね・・・」
ジュン「ホントにそう思ってる?」
私「もちろん。」
ジュン「オレ、がんばるからね。」
そしてその日も、私はジュンがとなりに寝ているだけで幸せな気分になって、気持ちよく眠りにつくことができたのだった。

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genre : 恋愛

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ジュンが腹を立てて・・・

先週の土曜、ジュンは午後3時ごろ、祖父母(私の元妻の両親)のところに出かけていった。夏の留学の報告もかねて、ジュンは祖父母といっしょに夜の食事をすることになっていたからだ。祖父母の家で写真を見せながら留学の報告をして、そのあと祖父母の家の近所の和食の店に夕食を食べに行く予定だった。そうなるとジュンがマンションに戻ってくるのはけっこう遅くなるなと思っていたら、夕方の6時すぎにジュンが微妙に腹を立てて帰ってきたのだった。
私「ジュン、おかえり、早かったね、予定かわったんだ?」
ジュン「オレ、だまされた・・・」
私「だまされた? どうしたんだい?」
ジュン「お祖父ちゃんちに着いて、写真を見せながらあっちのことを説明してたんだ。」
私「そのためにジュンは行ったんだろう?」
ジュン「そこまではよかったんだけど、1時間くらいしたら、急におじいちゃんたちがそわそわし始めて、何かなとちょっと変な感じがしたんだ・・・」
私「そんで?」
ジュン「しばらくしたら、急に女の人が入ってきて、あなたがジュンなの、大きくなったわねって、すげえ馴れ馴れしく話しかけてきたんだ・・・」
私「ひょっとして・・・」
ジュン「あんた誰?って感じで、オレが見てたら、その女の人が、私はあなたのお母さんなのよ、って言うんだ・・・」
私「やっぱりそうだったか・・・」
ジュン「おじいちゃんたちもひどいじゃん、いきなりあんなことするんだもん・・・」
私「そんでジュンはどうしたんだい?」
ジュン「オレ、こんなの騙し討ちじゃん、だからムカツイちゃって、とっさにオレには母親はいません、って言っちゃった・・・」
私「そんで?」
ジュン「で、もうそこにいるのがいやだったから、オレもう帰りますって言って立ち上がったんだ。おばあちゃんがオロオロしているのはちょっとかわいそうだったけど、そのまま帰ってきたんだ・・・」
私「それにしても今頃になって急にジュンに会わせるなんて、あの人達何を考えてるんだろう・・・」
ジュン「オレにはとうさんひとりしかいないからね、それで充分なんだからね・・・」
私「ジュン・・・」
ジュン「母親づらした顔を思い出しただけでもムカツクから、もうこの話は終り!」
私「ごめんね、ジュンに辛い思いをさせたね・・・」
ジュン「オレ、もう二度とあんな所には行かないからね、何か言ってきたらとうさんからそう言っておいてね。」
私「じゃあ、ジュンは夕飯食ってないんだ。」
ジュン「うん、食べる前に帰ってきちゃったから・・・」
私:じゃあ、一緒に食べよう、とうさんもまだ食べてないから。
夕飯を食べているうちにジュンの腹立ちもおさまってきたようだった。夕食後、ジュンはイライラをしずめるために、ピアノを思い切り弾きたいというので、私はベッドルームにいき、携帯でジュンの祖父に電話をした。
私「もしもし、聡一です・・・」
祖父「ジュンはどうしてる?」
私「なんか心をしずめたいとか言って、ピアノを一心不乱に弾いてますが・・・」
祖父「今日はジュンにはすまんことをしてしまった・・・」
私「ジュンから聞きましたよ、それにしてもいきなりはマズイと思いますが・・・」
祖父「ジュンも成人したし、もういいかと思ったんだが・・・」
私「ジュンはえらく怒ってますからね・・・」
祖父「そうか、それは困ったな・・・ こんどジュンに謝りたいのだがどうだろうか?」
私「なんかジュンはもうそちらには行きたくないと言ってるんですよ・・・」
祖父「そんなに怒らせてしまったか・・・」
私「今はダメですが、しばらくしたらジュンの怒りもおさまるでしょうから、その時でよければ私から伝えておきますが・・・」
祖父「そうか、そうするしかないか・・・」
私「あんまり変な小細工すると余計こじれてしまいますよ・・・」
祖父「今回はちょっと早まったな、ジュンに悪かったと誤っていたと伝えてくれるか?」
私「いちおう伝えてはおきます。」
あんまり好意的な会話がないまま、電話を私は切ってしまっていた。
リビングに行くと、ジュンは本当に嵐のように激しいテンペストを弾いていた。ジュンの心のなかにある怒りと悲しみが生々しく表出されている、聞いていてもちょっと心が痛くなるような演奏だった。それでも私はその演奏から耳をはなすことができなかった。テンペストの演奏が終わると、ジュンは私が聞いていたのを知って、少し恥ずかしそうな顔をした。
ジュン「変な演奏聴かれちゃったね・・・」
私「荒削りだけど、とうさんの心の奥まで大きなトゲで突き刺された感じ・・・」
ジュン「とうさんにはなんでも見抜かれちゃうもんね・・・」
私「少しは落ち着いたか?」
ジュン「まあね・・・」
その後、私たちはそれぞれ自分のことをして、1時前頃ににベッドに横になった。
ジュン「ねえねえ、とうさん・・・」
私「なんだい、ジュン。」
ジュン「とうさんはあの女の人みたいにオレのこと捨てないよね・・・」
私「なにわけのわからないこと言ってるんだよ、ジュン・・・」
ジュン「だって最近、あんまりオレにスキンシップしてくれないし、お風呂もいっしょに入ることが少なくなったし・・・ とうさん、オレのこといらなくなっちゃった?」
私「バ~カ、そんなわけあるわけだいだろうが・・・」
ジュン「じゃあどうしてだよ・・・」
私「ジュンも成人したことだし、あんまり子供みたいに扱うのもどうかなと思ってさ・・・」
ジュン「前みたいなほうがオレはうれしいけどね・・・」
私「でもさ、あんまりジュンのことをかまいすぎて、ジュンに鬱陶しく思われるのもいやだし・・・」
ジュン「オレはとうさんにいくらかまってもらってもいいけどね・・・」
私「それに今はこうやっていっしょに住んでいられるけど、ジュンもそのうち結婚するだろう、その時急にジュンを手放すのはあまりにもさみしいんで、少しずつ慣らしていこうかなと思ってるんだけどね・・・」
ジュン「オレはもしも結婚してもとうさんと同居するつもりだし、それならずっといっしょにお風呂入ったり、たまにはとうさんのベッドで一緒に寝たりできるできるじゃん。」
私「そんなことしたら、お嫁さんに嫌われるぞ。」
ジュン「そういうことを認めてくれる相手を探すから大丈夫・・・」
私「そんなにうまく探せるか?」
ジュン「オレだって、俊顕ほどじゃないけど、お婿さんとしてはそれなりにポイント高いと思うよ。」
私「それはそうだけど、変なのにつかまるなよ。」
ジュン「とうさん、今から心配するなよ。」
私「そうだな・・・」
ジュン「とうさん、寝るまでオレをかるくハグしててよ。」
私「もう甘えて・・・」
ジュン「とうさんがいちばん好きだよ・・・」
私「とうさんもだよ・・・」
ジュン「良かった・・・」
私の腕の中でジュンは安心したように眠り始めた。私はジュンの顔を見ながら幸せな気分でいっぱいになっていた。そしてしばらく私のほうは子離れができそうにないなと思ったのだった。

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