ヒロの実家

先週の土曜日の午後、わたしはあまり来たことのない私鉄駅に降りた。
改札を出ると、ヒロがわたしを待っていてくれた。
雑踏の駅の中で、ヒロの周りだけがさわやかな光が差しているようだった。

ヒロ「聡一、予定通りの電車だね。」
私「意外に近いところだった。」
ヒロ「まあ、各停しか止まらないけど、乗ってる時間はそれほど長くないでしょ。」
私「待たなかった?」
ヒロ「俺も来たとこ。」

ヒロの案内で、わたしは住宅街の緑の多い道路を歩いて行った。
10分ほど歩いたところに、ヒロの実家はあった。
新しい家ではなかったが、ちゃんとしたつくりの家だった。
玄関に入ると、奥のほうからヒロのお母さんらしい女性が現れた。

ヒロ「◇◇さんに来てもらったよ。」
母親「こんなところでご挨拶もなんだから、とにかく中に入ってもらいなさい。お父さんもお待ちかねよ。」
ヒロ「お父さん、機嫌はどう?」
母親「いつもとたいして変わらないわよ。」

廊下を進み、奥のドアを入ると明るいリビングだった。
趣味のいい応接セットが置かれていて、いちばん奥にヒロの父親らしい男性が座っていた。

母親「お父さん、お見えになったわよ。」

父親はソファから立ち上がりもせずに、うんとうなずいただけだった。
あんまり歓迎されるとは思っていなかったが、いざそういう態度をとられると、ちょっと落ち込むものだ。
わたしは父親の前にテーブル越しに立った。

私「初めまして、◇◇聡一と申します。」
父親「前にそう立たれるとうっとおしい。そこに座ったらどうだ。」
私「はあ、ありがとうございます。」

わたしは少し下がってソファに座った。

父親「なんか用があって来たんだろう。」
私「はい、お願いがあってきました。」
父親「君に頼まれるようなことはないと思うが。」
ヒロ「お父さん、とにかく話を聞きなよ。」

そこに母親がトレイを持って入ってきた。

母親「まあまあ、歩いていらしたんだから、ノドが渇いたでしょう、とりあえずお紅茶でもどうぞ。」
私「ああ、おかまいなく・・・」
母親「それから、お紅茶に合うパウンドケーキを作りましたのよ、いっしょに召し上がってくださいね、味のほうは保証できないかもしれないけど。」
ヒロ「聡一、母のパウンドケーキはけっこうおいしいんだ、食べてみて。」

すすめられてわたしはミックスフルーツのたくさん入ったパウンドケーキを食べた。しっとりとしたバター風味のパウンドケーキの中には甘酸っぱいフルーツがたくさん入っていてとてもおいしかった。

私「このパウンドケーキ、とてもおいしいです。」
母親「あら、お口に合ってよかったわ、たくさん作ってあるから、たくさん召し上がってね。」

ひとしきり紅茶を飲みながら、おいしいケーキを食べた。
紅茶を一杯飲み終えたころ、肝心の話を始めなければならない雰囲気になってきていた。

母親「今日は◇◇さん、どういうご用件でいらっしゃったのかしら?」
私「今日は折り入ってお願いがあって参りました。」
母親「どういうお話かしら、ドキドキしちゃうわ。」

ヒロは母親にはすでにわたしたちのことをすべて話していると言っていた。これは父親のほうに話を伝えるために、わたしに一から話させるつもりなのだろう。

私「今、わたしは浩くんとお付き合いさせていただいています。」
母親「お付き合いというと、どういうことなのかしら?」
私「将来を約束した真剣なお付き合いということです・・・」
母親「◇◇さんも、ウチの浩もふたりとも男の人だと思うけど・・・」
私「はい、ふたりとも男ですが、お互いを大切に思っています。」
母親「それは男女の夫婦と同じようなものと思ったほうがいいのかしら?」
私「そう思っていただいてよろしいかと・・・」

それまで黙っていた父親が急に声をあげた。

父親「それは、◇◇くん、君がウチに嫁に来るということでいいのか。男の嫁なんぞ、ウチはいらないんだが・・・」
ヒロ「お父さん、そうじゃないんだよ。」
父親「そうじゃないなら、浩、お前が嫁に行くということなのか、お父さんはそんなことは許さないぞ。」
ヒロ「お父さん、嫁に行くとか行かないとか、そうことじゃないんだけど・・・」
父親「お前のほうが女役なのか?」
ヒロ「だからそういうことじゃないって、俺たちの関係は対等なんだから。」
私「ええとですね、わたしたちはどちらも男性として、相手を男性として大切に思っているわけなのです。」
父親「そういうことなら、子供はどうするんだ、男同士は子供は生めないだろうが。」
私「確かにそれだけは無理ですが・・・」
父親「浩はウチの一人息子だ、とにかく跡継ぎを作ってもらわないと、ウチの家系が途絶える。」
母親「そうなのね、そういうことはわたしたち、孫の顔を見られないわけなのね・・・」
ヒロ「それは謝るよ・・・」
母親「でも普通のご夫婦でもお子さんのいないところもあるんだから・・・」
父親「お父さんの言いたいことはそれだけだ。浩ももう子供じゃないんだから、自分でよく考えるんだな。」
母親「今日はこのくらいにしましょうね、また考えがまとまったらお話ししましょう。」

ヒロの父親はそのままリビングを出ていってしまった。

母親「◇◇さん、今日はこれでお引き取りくださるかしら。」
私「はい、お騒がせしました。」
ヒロ「お父さんはホントガンコで困る。」
母親「あれでも譲歩してるのよ、ちょっと前まではぜったいに◇◇さんには会わないって言ってたんだから。」
ヒロ「お母さんはどうなんだよ?」
母親「わたしの意見もお父さんと同じよ。ヒロちゃんの相手が男性なんて、すぐに受け入れられるものじゃないのよ・・・」
ヒロ「なんだ、お母さんもお父さんと同じ意見なのか・・・」
母親「でも、わたしがいちばん望んでるのはヒロちゃんが幸せになってくれることなのよ、だからヒロちゃんが◇◇さんといっしょにいることが幸せだって言うんだったら、なんとかお母さんも受け入れられるようにしなきゃならないわね、難しそうだけど・・・」
私「いろいろとすみませんでした、今日はこれで失礼します。」
母親「今はダメだけど、もう少し時間が経てば、お父さんの気持ちも多少は変わるかもしれない。」
ヒロ「そうだといいけど、お父さんの気持ちが変わらなかったら、俺、もう家に帰ってこられないよ・・・」
母親「そんなこと言わないで、帰ってきなさい、ここはあなたの家なんだから・・・」
ヒロ「とりあえず、俺、聡一さんといっしょに帰るよ。」
母親「あら、そうなの。じゃあ、今夜食べるものを持っていきなさい。」
ヒロ「聡一、そう言う訳だから、先に駅まで行って、駅前の喫茶店で待っててくれるかな。」
私「いいよ、先に行ってるよ。それでは、今日はお邪魔しました、これで失礼します。」
母親「ごめんなさいね、家に来るのはもう少し先まで待ってくださいね。」

わたしはヒロの家を先に出て、駅前の喫茶店に入った。気を鎮めるためにコーヒーを頼んで飲んだ。
コーヒーを飲みながらしばらく待っていると、ヒロがちょっとした荷物を持って現れた。

ヒロ「ゴメン、待たせたね。」
私「コーヒー飲んでたらすぐに時間が経った。それにしても、ヒロ、大荷物だね。」
ヒロ「母親が、あれもこれも持って行けって言うんだよ、すでにいろいろ持って帰ってるからいらないって言ったんだけど、けっきょく押し切られて、持ってくる羽目になった・・・」
私「いいお母さんだよね。」
ヒロ「もう少し俺の味方をしてくれると思ってたんだけど、いざとなると親父のほうに着いちゃって、ったく。」
私「でも、お母さんがいろいろと気配りをしてくれたわけなんだから、今はそれだけでも感謝しないと・・・」
ヒロ「まあそうなんだけどね。でも、俺には聡一っていう運命の相手が現れたからこういうことになったんだけど、もしも聡一に出会ってなかったら、親の見つけてきた相手といやいや結婚してたかもしれない、うわっやだやだ。」
私「ゲイなのに女の人と結婚するとけっこう辛いぞ。」
ヒロ「そうだね、聡一は経験者だもんね。」
私「普通の生活は別にいっしょにしててもだいじょうぶなんだけど、セックスがちょっと辛かった。なかなか勃たないんだよね。」
ヒロ「でもジュンちゃんがいるってことはセックスできたってことでしょ?」
私「なんとかね。もう二度とできないな・・・」
ヒロ「俺だったら、女の人とだとぜったいに勃たないな。だから女の人との結婚は俺はムリ。」
私「だから、ヒロは俺といっしょにいればいい。」
ヒロ「げげげ、今さりげなく聡一、俺にプロポーズした?」
私「今さらプロポーズでもないだろう・・・」
ヒロ「でもでも、俺は聡一のプロポーズ、ちゃんと聞きたい、もう一回言って。」
私「こんなところでするのか、それでいいのか?」
ヒロ「どこでもいいよ、聡一のプロポーズなら・・・」
私「ヒロのこと、大切にするから、これから先、いっしょにいてほしい・・・」
ヒロ「マジ、マジ、なんか俺、泣けてきたじゃんか・・・」
私「ヒロの答えは?」
ヒロ「聡一、プロポーズしてくれてありがとう。俺でいいのなら、もちろんOKだよ。」
私「こらこら、そんなに泣くなよ、まわりの人にヘンに思われる・・・」
ヒロ「なんで俺、こんなに涙が出るんだろう・・・」
私「ヒロの涙は清らかだね・・・」
ヒロ「今日は聡一、どうしたの、なんか俺、うれしすぎる・・・」

ヒロが落ち着くのを待ってから、わたしたちは喫茶店を出た。電車に乗るような雰囲気でもなかったので、駅前でタクシーに乗り、ヒロのマンションまで行った。

私「今日は疲れた、風呂に入ってまったりしよう。」
ヒロ「じゃあ、お湯張りのスイッチいれてくるね。」

しばらくするとお湯が入ったということ知らせる音がなった。わたしたちは、服を脱いでバスルームに入り、軽く体を流してからお湯に入った。私が先にバスタブの中に座り、その前に抱くようにヒロを私のすぐ前に座らせた。

私「じゃあ、ゆっくりと風呂に入って疲れをとろう。」
ヒロ「だね、なんかすげえ気疲れしちゃった。」
私「いろいろ大変な思いさせたね。」
ヒロ「いろいろあったけど、でも、俺、すげえうれしかった、聡一のマジの気持ちが聞けて。」
私「もっと早く言っとくべきだったんだけどね。」
ヒロ「今日でよかったと思う。」

その後わたしたちはからだを洗いあって、またお湯でじゅうぶんに暖まってからバスルームを出た。
リビングのソファに並んで座って、冷たいビールを飲んでから、そのままベッドに行った。

私「眠そうだね、ヒロ。」
ヒロ「なんかすげえ今幸せ。」
私「寝る?」
ヒロ「うん、今日はこのまま寝たい。」
私「いいよ、ゆっくり寝るんだよ。」

わたしたちは幸せな気分に包まれて、だんだんと眠りに引き込まれていった。
翌朝、朝食をとったあと、わたしが練習中のヴァイオリンソナタをふたりで合わせてみた。

ヒロ「なんか、聡一のヴァイオリンの音、なんか前よりイロっぽくなったような気がする。」
私「なんか、すげえ滑らかに鳴ってるって感じかな。」
ヒロ「ピアノはわかりにくいけど、ヴァイオリンってすげえ演奏してる人の状態が直に反映されるよね。」
私「だから人前で演奏するのは怖いんだよね。」
ヒロ「でも、この曲、早く仕上げて、誰かに聞かせてあげたいな。」
私「もう少し、完成度を上げないとね。」

2時間ほどふたりで練習をしてから、ヒロのマンションを出て、外でランチを食べた。
そして午後はヒロのほうが新しい曲を練習するというので、わたしはレッスン室に座って、本を読みながらヒロの演奏を聞いていた。
夕方、わたしはひとりで外出して、近所のスーパーで夕食の買い物をした。
ちょっと早めの夕食を食べて、わたしはヒロに車で送ってもらって、マンションに帰った。
マンションに入ると、ジュンはすでに帰ってきていて、ジュンもピアノを弾いていた。

私「ただいま、ジュン、もう帰ってたんだ。」
ジュン「ひ〇さんはご両親と晩御飯を食べるってことで、夕方別れた。」
私「ジュン、ちゃんとご飯食べた?」
ジュン「うん、それなりに食べたよ。」
私「話変わるけど昨日、とうさん、ヒロの実家に行ってきたんだよね。」
ジュン「マジッ、で、どうだったの?」
私「あんまり歓迎されなかったけど、とりあえずはご両親に会ってもらえた。」
ジュン「そうなんだ、たいへんだったね。」
私「ヒロと両親の間を悪くするわけにいかないからね、少しずつやっていかないといけないな。」
ジュン「とうさん、がんばってね。ヒロちゃんはとうさんのことはマジで好きみたいだからね。」

ジュンとふたりだけの暮らしもあと半年ほどになっている。ジュンは結婚後もわたしと同居すると言っているが、実際新婚夫婦がプライバシーを保てるほどの広さのある住宅をすぐに手に入れられるとも思えない。
まだどういうふうになるかわからないが、今年はいろんなことが起こってくるのだろうと思う。



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