ジュンの修了の挨拶

去年の3月にジュンは大学院を修了した。ジュンが社会人になるまでとの約束で学費の援助をしてもらっていたし、ジュンのもう一方の祖父母ということは、ジュンには彼らの血が流れているわけで、戸籍上は関係がなくなっても、知らん顔をするわけにはいかない。
本来ならば、修了証書を貰った後すぐに見せに行かなければならないのだが、ちょうどその頃、ジュンを生んだ人が再婚相手の都合で、一年ほど実家に家族で戻ってきていたので、私たちが行くわけにはいかなかったのだ。年が明けて、その人もまた再婚相手のところに戻ったので、遅まきながら私たちはジュンの祖父母にあいさつに行くことにした。
ある土曜日の午後、私はジュンを連れて、電車を乗り継いで、ジュンの祖父母のところに行った。ふたりとも珍しくそろってスーツ姿だった。社会人になったジュンを見せておく必要があったからだ。

ジュン「なんかあんま行きたくないなあ。もう電話では報告してあるんだし・・・」
私「まあ、戸籍上はどうであれ、ジュンの祖父母であることは変わらないからね。いちおう直接あいさつしないといけない。」
ジュン「そうなんだよね、でもとうさんはもうぜんぜん関係なくなってるんだよね。」
私「いろいろあったけど、べつにあの人たちを嫌いなわけじゃないからね。」
ジュン「ホント、ならよかった。」
私「ジュン、ときどき顔を見せに行ってもいいんだぞ。」
ジュン「でも、もう別の孫がいるわけだから、オレが行かなくてもだいじょうぶだと思う。」
私「まあ、ジュンは他の孫と違って、近くにいるわけだから・・・」
ジュン「とうさんがそう言うんなら、たまには行ってもいいかな。」
私「まあ、今日はとりあえずスーツ姿を見せて、社会人になったってことを報告しなきゃね。」
ジュン「とうさんのスーツも久しぶりに見た。」
私「そうだな、ジュンが社会人になってから、ジュンはとうさんより先に出かけて、帰るのは遅かったもんな。」
ジュン「そのスーツ、お祖母ちゃんが買ってくれたものでしょ?」
私「そうだよ、まあ親に買ってもらうような年じゃないんだけどね・・・」
ジュン「えっ、そうなの、オレはいくつになってもとうさんに買ってもらうと、うれしいだろうと思うけどね。」

最寄り駅から静かな住宅街を少し歩いて祖父母の家に行った。

祖母「まあまあ、ジュンちゃん、よく来たわね。聡一さんもお久しぶりね。」
私「ご無沙汰しております。」
祖母「さあ、上がってちょうだい。お父さんも待ってるわ。」

和室に通されると、祖父が床の間を背にして座っていた。

私「ご無沙汰しております。お元気そうで安心しました。」
祖父「無沙汰はお互い様だ、聡一くんも元気そうだな。
ジュン「お祖父ちゃん、ご無沙汰してました。」
祖父「このところ、さっぱり顔を見せなかったな。」
祖母「しょうがないでしょう、このあいだまであの子がいたんだから。」
ジュン「ごあいさつが遅れましたが、去年の3月に大学院を修了して、無事就職しました。在学中はいろいろ援助をしていただき、ありがとうございます。」
祖父「そんなあいさつはいらんぞ。ジュンはいつまでもわたしらの孫だ。今までどおりでいてくれたほうがお祖父ちゃんもうれしい。」
祖母「ホント、ジュンちゃん、立派になって・・・」
私「ジュンがここまでなれるまで、助けていただいて感謝しています。」
祖父「後はジュンの結婚だけだな。」
祖母「ジュンちゃん、婚約者の方はお元気?」
ジュン「今、留学中なんだけど、正月に会った時は元気でした。」
祖母「ジュンちゃんに子供ができたら、ひ孫ってことよね。早く抱きたいわ。」
祖父「お前はなにを焦っとるんだ、ジュンにはジュンの計画があるだろう。」
ジュン「もう少し待ってね、相手の都合もあるから。」

私たちはしばらく差しさわりのない会話を続けてから、切りのいいところで帰ることにした。

私「じゃあ、これからどうしようか?」
ジュン「せっかくふたりともスーツ着てるんだから、ちょっとカッコいいところで飲みたい。」
私「どっか知ってるのか、ジュン。」
ジュン「ええと、前に俊顕と行ったことのあるバーがあるんだけど、そこに行こうよ。」
私「高級なバーなのか?」
ジュン「うん、インテリアとか、すげえしゃれてて、落ち着くとこだよ。」
私「たまにはそういう高級なところにも行ってみるか。」
ジュン「でも、それほど高いわけじゃないからだいじょうぶ。」

私たちはちょっと散歩をして時間をつぶしてから、そのバーに向かった。繁華街をちょっと離れた静かなところに、目立たない看板を出していた。

私「これじゃあ、知ってる人以外、入れないよね。」
ジュン「うん、お客はほとんど常連さんだけみたいだね。」
私「俊顕の知ってる店ってことは、あっち系の店?」
ジュン「どうかな、まあマスターはゲイだって言ってたけど、お客さんは普通だよ。まあマスターはあっち系の人にはモテるらしいから、けっこうゲイの人たちも来るみたい・・・」

目立たない入り口のドアを開けて中に入ると、しゃれているのに落ち着いた雰囲気のバーだった。

マスター「いらっしゃいませ。カウンターでいいですか?」
ジュン「カウンターがいいです。」
マスター「ええと、確か俊顕くんといっしょに来た、ええと、ジュンちゃん。」
ジュン「覚えててくれました?」
マスター「ジュンちゃんみたいなイケメンを忘れるわけじないでしょうが。」
ジュン「俊顕、最近来てます?」
マスター「まあぼちぼちね。」

私たちは勧められたマスターのすぐ前の席に座った。マスターはベストに蝶ネクタイという姿だったが、服の下はけっこう筋肉質のような感じだった。

マスター「確かジュンちゃんは俺たち側の人じゃなかったと思ったんだけど・・・」
ジュン「オレたち、どんな関係に見えます?」
マスター「そうだなあ、年上の出来るリーマンと、年下の頭のいい部下、でも実はふたりは真に愛し合ってる・・・」
ジュン「マスター、すげえ、鋭い。」
マスター「やっぱりそうなんだ。でも理想的なカップルだよね。ジュンちゃんのカレシ、名前は?」
ジュン「聡一って言うんだ。けっこうカッコいいでしょ。」
マスター「ほんとうにお似合いのカップルだなあ。」
私「ええと、すみません、私たちは実は。」
ジュン「でも、オレたちカミングアウトしてないから、秘密のカップルだから。」
マスター「そうなんだ、わかりました。」
私「このバー、いい雰囲気ですね、長くやってるんですか?」
マスター「今年で5年目になります。」
ジュン「マスターがカッコいいから、マスター目当てにいろんな人が来るんだよ。」
マスター「私はたいしたことないですよ、それより聡一さんとジュンちゃんの方がはるかにカッコいい。ふたりともスーツが似合ってますよ。」
ジュン「でも、俊顕には負ける。」
マスター「俊顕君もいいけど、ジュンちゃんも負けてないと思うよ。でもジュンちゃんがゲイだなんて意外だな。」
ジュン「オレはバイ、どっちもイケるんだ。」
私「こらこら、ジュン、いいかげんにしなさい。」
マスター「ほら、ジュンちゃん、不用意にバイなんていうから、彼氏が怒っちゃたみたいだよ。」
私「あの、そうじゃなくてですね」
ジュン「やきもち焼きなんだよね。」
マスター「嫉妬されるのは、ジュンちゃん、愛されてる証拠だからね。」

だんだん私はマスターとジュンの会話に、否定する気力をなくしていた。しばらく私たちと話した後、マスターは別の客の相手をし始めた。私はジュンと会話を続けた。

私「まったく、マスターには完全に誤解されたね。」
ジュン「べつにいいじゃん。」
私「よくないよ、こんど来た時にジュンからマスターの誤解を解いておくんだよ。」
ジュン「オレはとうさんのこと、好きなんだし、ということは、完全な誤解ってわけじゃないじゃん。」
私「しょうがないなあ・・・」
ジュン「とうさんは、オレが好きだと迷惑?」
私「そんなわけないだろうが、ジュンに好きって言われると、うれしいぞ。」
ジュン「ならいいじゃん、オレたち相思相愛なんだから。」
私「またそんな誤解されるようなことを言う・・・」
ジュン「オレはとうさんが好き、とうさんはオレのことが好き、これって相思相愛じゃん。」
私「それはそうなんだけど・・・」
ジュン「とうさん、好きだよ。」
私「こらこら、こんなところで寄りかかってくるんじゃない・・・」

ジュンは私の方に寄りかかってきて、肩の上に頭を乗せた。

私「やれやれ、これじゃあゲイのカップルと思われてもしょうがないなあ。とうさんはまあゲイなんだからいいけど、ジュン、お前はそうじゃないんだから・・・」
ジュン「オレはね、とうさん限定でゲイなのかもしれないよ。」
私「まったく変なことを言うんじゃない・・・」
ジュン「とうさんといるとすげえ安心できる・・・」
私「ジュンはそのうち結婚しなきゃなんないだろう・・・」
ジュン「うん、もちろんするよ、ひ○さんのこと好きだもん。でもそれまではオレはとうさんのもの・・・」

しばらくジュンは私に寄りかかったままでいたが、気が済んだのか、やっと寄りかからなくなった。

私「ジュン、ひ○さんが留学から帰ってきたら、結婚するのか?」
ジュン「すぐにではないけど、結婚はするよ。」
私「そうか、その時はとうとうジュンと別れて暮らすことになるのか・・・」
ジュン「ええっ、そうなんないよ。オレはとうさんと同居するつもりだけど・・・」
私「でも、ジュンがそれでよくても、ひ○さんがダメって言うだろう・・・」
ジュン「それはだいじょうぶ。もうひ○さんにはとうさんと同居のことは以前から認めてもらってる。」
私「それはうれしいけど、でも状況は変わってて、同居するってことは、とうさんだけじゃなくてヒロもいっしょってことだぞ。」
ジュン「それについてもひ○さんはぜんぜんかまわないって言ってるよ。」
私「ジュンとひ○さんがよくても、世間体もあるしなあ・・・」
ジュン「別に気にすることないじゃん、オレたちがいいって言ってるんだから。それにひ○さんは、とうさんが同居すると育児も手伝ってもらえそうだから、大歓迎って言ってたよ。」
私「まあ、とうさんは育児の経験者ではあるけどね・・・」
ジュン「もう子供の面倒見るのは嫌? オレの面倒見たからもうしたくない?」
私「とうさんはジュンを育てるのを面倒だとか、大変だとか思ったことないよ。ジュンに子供ができたら、むしろすすんで面倒見させてもらいたいくらいだ。」
ジュン「じゃあ、ちょうどいいじゃん、ひ○さんは子供の面倒をとうさんに手伝ってもらいたいし、とうさんはすすんで手伝いたいって言うんだから、すげえ相性がいいわけじゃん。」
私「それはそうなんだけどね、ヒロもいっしょに住むとなるとなあ・・・」
ジュン「別にヒロちゃんがいてもいいじゃん、オレたちにはとうさんがふたりいるようなものじゃん。」
私「それにしても、同居するって言っても、今のマンションじゃとても狭すぎてそんなことはできないし、ジュンたちに子供ができたら、けっこう広いとこじゃないといけないぞ。」
ジュン「それはなんとかなりそうだからとうさんは心配しないで。」
私「心配しないでって言われても、心配にはなるよ・・・」
ジュン「それに同居しても、ひ○さんと、ヒロちゃんは仕事が忙しくて飛び回ることになりそうだから、けっきょくオレととうさんがいちばんいっしょにいることになりそうだよ。」
私「それにしても、ジュンは自分に合ったいい相手を見つけたよな・・・」
ジュン「最初はフェイクのフィアンセだったのにね、わかんないもんだよね。」
私「ジュン、お前たち、ちゃんと好きあって結婚するんだよね。」
ジュン「もちろん、嫌いな人と結婚するわけ無いじゃん。まあ、ひ○さんは頭いいから、いつも冷静で論理的だからさ、冷めてるように見えるかもしれないけど・・・」
私「まあ、ジュンがそこまでわかった上で、結婚するんだったら、とうさんも安心だ。ジュンとひ○さんだと、いい子供ができそうだ。」
ジュン「でも、まだ先のことだからね。」
私「そうだな。でもジュンとちゃんと話せてよかったよ。」

話が一段落したところで私たちは店を出ることにした。少し酒を飲んでしまったので、マスターにタクシーを呼んでもらい、私たちはちょっと贅沢をしてマンションまで帰った。

マンションに戻ってからも、なぜかジュンは私に甘えまくって、けっきょく私たちはいっしょに風呂に入った。そして、ベッドに入っても、ジュンは私に甘えっぱなしだった。しばらく私にハグされてからやっとジュンは安心したように眠りについた。私も幸せな気分のまま、眠りに引き込まれていった。

theme : 男同士の恋愛
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tag : ゲイの父親

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Re: はじめまして

katsuya様

コメントいただきありがとうございます。
ブログを最初からお読みいただきたいへんうれしく思っています。

こういうブログですが、更新がんばっていくつもりですので、応援よろしくお願いします。

Re: タイトルなし

たけろー様

コメントありがとうございます。
スーツを着ていたせいで、けっこういい経験をしました。
これからも息子とは仲良くやって行けたらいいと思っています。
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